2012年5月23日水曜日

清潔と不潔・滅菌と消毒(その1)

2011年10月29日のブログの"足グセ"前回の"無影灯(オペライト)"で清潔と不潔について少し書きましたが、医療関係における「清潔・不潔」と一般生活における「セイケツ・フケツ」(あえてカタカナ書きにします)の概念は意味合いが違うんですね。では何故こんな概念が必要なの?と言うと、ヒトは様々な微生物と共存している事と関係しているんです。

微生物にも大きく分けると2種類あって、ヒトに害を与えない非病原性微生物(以下善玉菌と呼びます)と、害を与える(病気の元になる)病原性微生物(同悪玉菌)です。そしてヒトの皮膚や口腔粘膜には善玉菌である多くの常在菌が存在し共生しています。微生物=悪者と思いがちですが、善玉菌がいる事でパンデミック(感染症が世界規模で流行する事)を防いでいる一面もあるので、悪者とは一概には言えないのです。(ヒトの抵抗力が低下すると日和見感染(ひよりみかんせん)する事もあるので善玉菌=善玉ばかりとは言えないのですが…) なので医学的にはヒトの皮膚や口腔粘膜には数多くの善玉菌と極少数の悪玉菌が居ると言う前提が有り、これはどんなに丁寧に何度も手洗いしても毛穴の中にもイッパイ居るので、生き物の表面から微生物の数をゼロにする事は出来ないのです。(この無菌に出来ない話の続きは後ほど…)

ところが我々には微生物は見えませんし、もし見えたとしてもそれが善玉菌なのか悪玉菌なのか瞬時に判断出来ませんよね。だから悪玉菌の進入を防ぐバリヤーの役割を果たしている皮膚や歯肉を切開する手術では、生き物(患者さん)の表面以外の、器具やグローブその他一切のモノから善玉・悪玉の両方を引っくるめて微生物が一切居ない環境を整える必要があるのです。この状態にする事を滅菌と言います。そして滅菌されて微生物が存在していないエリアを清潔(清潔野・清潔域)と言います。逆に清潔じゃ無い状態全てを不潔(不潔野・不潔域)と言い、清潔域でも菌が一匹でも付着した、若しくは菌が付く行為をしたら不潔になったとみなすのです。

なので清潔・不潔のルールは
  • 清潔なモノ同士が触れても滅菌されたモノ同士なので清潔なまま
  • 清潔なモノが不潔なモノに触れた瞬間に菌が付着した、とみなして不潔とする
となります。これは概念ですから実際に菌が付着してしまったのか?は問われず、不確定行為をしたら不潔となります。その行為が怪しければ不潔とするという事ですね。

因みに、消毒薬を使って手を洗ったり手術野を刷掃する事でヒトに害を与える悪玉菌の数を減らし、また感染させるだけの能力を奪い取る事を消毒と言って、これには菌の存在は否定されません。一般生活ではこの状態を「セイケツ」と呼ぶ事が多いですが、「清潔」では無いのです。

長くなってきたので、その2に続きます。